12月16日の話題

ちなみに、この話題については、shogunさんのディスコードでも議論されてます。

 

公取委は銀行が決済インフラを「独占」していることがフィンテック企業の参入を阻んでいると疑っている
銀行と公正取引委員会の対立の構図が鮮明になってきた。銀行が「全銀システム」を含む決済インフラを「独占」していることが、フィンテック企業の新規参入を阻んでいるのではないかと疑う公取委に対し、銀行業界が反発を強めている。この問題は根っこをたどると決済インフラのコスト構造に行き着く。浮かび上がるのは、システムベンダーの巨人、NTTデータの存在だ。公取委の動きは銀行とNTTデータの蜜月関係にメスを入れる可能性がある。

NTTデータが最後の『岩盤』だ。あそこが価格を下げてくれない限り、オープンAPIは進まない」。11月、地方銀行フィンテック企業の会合で、こんな声が出た。APIとは、家計簿アプリなどを展開するフィンテック企業が利用者の銀行口座に直接アクセスし、アプリから口座残高を確認したり、振り込みしたりすることを可能にする仕組みだ。金融革新を起こす切り札とされた。だが、実態は全国で半数以上の銀行がフィンテック企業との契約をまったく結んでいない。法定の契約締結期限は来年5月。大半のフィンテック企業は期限に間に合わないと懸念されるが、折り合わない大きな原因の一つが接続手数料だ。

例えば、地方銀行が主張するAPIの手数料は、銀行口座情報に1回アクセスするたびに「十数円~数十円」の水準だ。これに対し、フィンテック企業は「0.1円程度」でなければ事業が成立しないと訴える。APIをつなぐにはフィンテックのサービス利用者に負担を求めるか、銀行側のコストの大部分を占めるNTTデータがより安価にサービスを提供する必要がある。

「コスト構造にメスが入らない限り、根本的な問題は解決しない」(有力なフィンテック企業)。APIの分野でNTTデータのシェアは6~7割に上る。インフラのベースになっているのは、まだ電話機や回線利用制度が自由化されていない公社時代の1981年から始めた、自動照会通知システム(ANSER=アンサー)というシステム基盤だ。家庭の電話を使った「テレホンバンキング」を提供するため、全国の銀行がこぞって接続した。この基盤を使えば、APIでも各種の認証は楽になる。銀行はおのずとAPIシステム開発・運営もNTTデータに委託することになる。強固な「独占状態」がフィンテックの時代でさらに固まることになる。

NTTデータにも主張を聞いた。担当者は「まず手数料はシステムベンダーの同業と比べて高いわけではない。銀行の評判を左右するようなシステム障害を起こさない安全なシステムの構築には多大なコストがかかっている」と説明した。最初は手数料を下げ、金融技術革新を促した後に、手数料を上げて果実をとる戦略もある。だが、それによって魅力的で新しい金融サービスが育つ保証はないという。

「鶏」と「卵」のどちらが先か、議論は折り合う気配がない。NTTデータは銀行がフィンテック企業のセキュリティー水準を調べることを支援する計画で、APIを推進する姿勢は崩していない。

「取引の実態や業界の取引慣行、規制が新規参入者に与える影響を把握する観点から実態調査する」。11月、公正取引委員会から銀行に秘密裏に渡った書面調査票。計20枚以上の分量だった。

調査に動いた公取委の問題意識は「銀行インフラを使うのに、なぜ高いお金がかかるのか。そこには新規参入を阻む構図があるのではないのか」に尽きる。APIについてシステムベンダーの選定理由を事細かに尋ね、APIの手数料、スマホ決済アプリに銀行口座からお金をチャージする際にかかる手数料、金融機関の国内為替取引を処理する「全銀システム」まで幅広く調査対象にした。NTTデータは銀行インフラのコスト構造にメスを入れるうえで、カギを握っている。


NTTデータは「CAFIS(キャフィス)」と呼ばれるクレジットカードなどの取引情報を送る回線インフラでも、圧倒的な地位にある。カード大手にかかる手数料は回線を1回通るたびに1円程度だが、地銀になると1回あたり3円超とられることもあるという。100円の決済に3円超とられると3%超。仮に加盟する店舗から取引額の3%を手数料として受け取ったとしても赤字になる。「日本で少額のキャッシュレス決済が広がってこなかった一因」(カード会社幹部)と指摘する声は多い。

CAFISは百貨店などの大規模な小売店約2000社とつながり、インターネット通販のショップでも3000社が利用している。取引量は年10%超の伸びが続いている。NTTデータは銀行の基幹システムでも4割のトップシェアを持ち、全銀システムもNTTデータの牙城となっている。

関係者によると「NTTデータへの対抗」という意味で最も迫ったのは、16年に発足した「内外為替一元化コンソーシアム」だった。SBIホールディングスとSBIリップルアジアがとりまとめ、メガバンクを含む60以上の銀行がブロックチェーンを使った送金網の構築を模索した。この機能はSBI子会社の「マネータップ」に引き継がれ、3行で商用化された。だが、5月にりそな銀行が抜け、住信SBIネット銀行とスルガ銀だけになった。足元では三井住友カードとビザ・ワールドワイド・ジャパン、GMOペイメントゲートウェイで作る次世代決済「stera(ステラ)」など、NTTデータを介さない新プラットフォームをめざす動きも出てきた。

システムの安全性が特に重視される日本では、障害や個人情報漏洩を起こした時の反作用も極めて大きい。中小規模が多いフィンテック企業ではなく、資本力のある銀行やNTTデータが主導する技術革新の方が日本に適しているとの見方もある。

一方、既存の金融機関しか接続できなかった中銀の決済システムに接続し、低価格の送金サービスを急拡大させた英トランスファーワイズのようなフィンテック企業が海外でどんどん生まれ、日本では育ちにくいのも事実だ。銀行業界とNTTデータをめぐる公取委の動きは、複雑に絡み合ったニッポン金融の「安定」の構図を再考するきっかけになる。